2010年11月10日

「しゃぼん玉とんだ」 続き

一番最初に手をあげて発表したのは、あの佐藤さんだった。

「あの・・・正直、私はこの課題は出来ないなと思っていました。なぜなら、私には小さいときの自分の記憶がないからなのです。」

「この三日間、課題には手がつかず、かといってこんな私を採用していただいた社長さまに嘘のレポートを提出することも出来ず、思わず飯野さんに電話をしてしまいました。」

「昨晩は、飯野講師のアドバイス通り、久しぶりに母を誘って、近くの温泉に出かけました。」

「風呂場で、母親の背中を流していると、『何か困っている事があるじゃないの?』と、母の方から切り出されてしまい、思わず私は、今回の課題の話しと、今まで聞けなかった父親の話をしました。」

「実は、母は女手ひとつで私を育ててきて、私には父親の事は、何一つ話さなかったのです。」

「母は、私からタオルを奪うと、反対に私の背中を擦りながら、
『もう、お前も一人前の大人になったのだからお父さんとの約束もこれで果たせた・・・。直子、お前のお父さんは、本当に素晴らしい人だった。』
と語りだしたのです。」

『ただ、残念なことにあなたのお父さんは、人様には、顔向けできないヤクザだったの。でもね、お父さんは、好きでヤクザになったのではなく、小さい頃から両親の顔を知らないお父さんにとって、唯一、お父さんを迎えいれてくれたのが、塙組長だったの。』

『お父さんは、本当に優しい人だったわ。困っているお年寄りを見ると、いてもたってもいられずに直ぐに手助けに飛んでいったり、中途半端にぐれて薬なんかやっている若いもんを見つけると、親以上に真剣に叱りつけてね。でもいつもその後家に連れて来て「ステーキを食わせろ、それも最高の!」何て言うものだから、いつも家計は火の車だったわ。』

『でも、お母さんはとても楽しかった!なぜなら、本当にお父さんは、お母さんに優しかったの。・・・そんな時に、私のお腹に子供が宿ったの。あなたではなく、貴方のお兄さんね。』

『お父さんは本当に喜んで。町中の人に、「俺の子が出来たんだ!」何てふれまくるものだから、お母さんは、とても恥ずかしくて・・・。』

『でもね、その子は結局流産してしまったの。』

『あの時のお父さんの落ち込みは、表現が出来ないほどだったわ。』

『その時にお父さんがよく口ずさんでいたのが、「しゃぼん玉とんだ」だったの。「なんで、壊れて消えたんだ・・・。なぜ、・・・消えたんだ!」何て、いつもそんなことばかり言ってね、ただただ、毎日夢遊病者のように一人で、川原ばかりいってたの。まあ、お父さんにとって、唯一の血の通った家族だったから無理もないけど。』

『そうしているうちに、お前が私の中に宿ったの。』

『今にも死にそうな顔をしていたお父さんが、急に昔の元気を取り戻して、「また、お腹の子供に何かあったら大変だ」というので、お父さんは、何も私にやらせてくれないの。笑えるでしょう。それまで、家事何て全くしたことのなかったひとが・・・。』

『そのせいで、お母さんは、10キロも太ってしまったのよ。』

『でもね、不思議に幸せは長く続かないものね・・・。』

『そんな幸せの真っただ中、大変な事件が起こったの。』

『お父さんを息子のように可愛がってくれた塙組長が刺されたの。幸い命に別状はなかったのだけれど、お父さんが父親として慕っていたひとでしょう。だから、それを聞いたとたんに瞬間湯沸かし器のように一人で相手の組に殴り込みにいってしまったの。』

『その後、お母さんは、警察病院に呼び出されて危篤状態のお父さんに会ったの。』

『その時に、お父さんは、最後の力を振り絞ってお母さんにこう告げたのよ。「すまない。俺がやくざだったから、お前には苦労のかけどうしだった。本当に申し訳なかった。でも・・・俺は最高に幸せだった。やくざの俺がこんなに幸せでいいのかというぐらい幸せだった。しかし、この後のお前やお腹の子の事を思うと心配で死んでも死にきれん。・・・約束して欲しい、この子にはどうしてもカタギで生きて欲しい。だから、俺の事は、何一つ話さないでくれ。この子には俺のようなやくざな親父がいたなんて知って欲しくはない。・・・そして、 お前は早くかた
ぎの男と結婚してこの子を幸せにしてくれ!」』

『お父さんはそれだけを言い残してこの世を去ったの。』

『その時、お母さんは心の中で決めたのよ。私は、ずっとお父さんに愛され続けてきた。だから、これからも心の中のお父さんと二人でこの子を育てていこうと。』

『また、お父さんは、私が嘘をつけないことをよく知っていたからあんな事を言ったの。』

『だから、お母さんはお父さんの言うとおり、直子には、一生お父さんの事は何も話さないでおこうと決めたの。』


『でもね、やはり、直子には知って欲しかったの。あなたのお父さんは、世間から後ろ指を指されるような身分だったけど、本当に素晴らしいお父さんだったということを。また、まだ生まれていなかった直子の事を心から愛していたことを。』

「母は、家に帰ると一枚の写真を見せてくれました。その写真には、とても優しく笑っている父親と母親が写っていたのです。」

「私は、こんなに素敵な両親の中で育ってきたのだという事実を知って本当に幸せです。そして、この素敵な時間を与えていただいた社長さまと、私に勇気を与えてくれた飯野講師に心から感謝申し上げます。ありがとうございました。」

「そして最後に。私の『自分史』の未来像は、まず配属された場所で結果を出して、必ず飯野さんのような素敵な研修担当者になります。」

割れんばかりの拍手が佐藤さんを包み込みました。その時の佐藤さんの笑顔は、絶対に忘れないでしょう。

そして、私も、佐藤さんから気付かされたのです。

今の仕事の大切さと、生きがいを・・・!

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